一般的なビード塗布と比べて、スティッチビード方式には数多くのメリットがありますが、その1つが材料を20%以上節約できる点です。ハイブリッド接合工程の生産性、安全性、品質を次レベルまで高めながら、総コストを少なくする方法をご覧ください。
軽量の複合材設計が主流の現在では、ハイブリッド接合が自動車車体工場における大きなトレンドの1つです。ハイブリッド接合では、強力な接着剤による構造体の接合をスポット溶接、フロードリルファスニング、セルフピアシングリベットなどの他の接合技術と組み合わせて行ないます。これにより、以下のようなメリットが得られます。
- 構造上の強度と剛性が高まり、運転性能と衝突時の安全性が向上
- ジョイントの耐腐食性が向上
- 接着剤の強度が高くなるので、溶接スポットの数を減らせる
ハイブリッド接合における課題
接着剤ディスペンシングを他の接合技術と組み合わせると、数多くの課題が生まれます。溶接スポットやリベットスポットで、接着剤が押し出される可能性があります。これでは材料が無駄になり、やり直しが必要になります。スポット溶接で使用すると、接着剤が溶接工程の熱で損壊して、有毒なガスが発生するおそれがあります。その上、より大きな溶接電流が必要になり、溶接全体で必要になる時間も増えます。よくある誤りのパターンを以下に示します。
- 絞り出し:溶接スポットやリベットスポットで接着剤を押し出す。これでは電着曹が汚れて、やり直しや材料の無駄になります。
- 噴出:接着剤はスポット溶接時の加熱工程で損壊すると、噴き出す可能性があります。この結果、接合部が腐食したり弱くなる可能性があります。
スティッチビード塗布で問題を解決
スティッチビード塗布では、接着剤の隙間を溶接スポットの発熱領域につくります。
アトラスコプコは、こうした課題を解決するため、特にハイブリッド接合用に塗布パターンを開発しました。スティッチビードと呼ばれる方式では、溶接領域にあらかじめ決められた間隔で断続的に接着剤を塗布することで、以下をはじめとする多くのメリットを実現します。
- 接着剤とコストを節約
- 高精度塗布は、溶接スポットでの接着剤押し出しが原因の修復作業ややり直しを無くします。
- スポット溶接時に有害ガスが発生しないので、空気排出システムが不要
- 接着剤の量が減るので重量が減り、CO2排出量を減らせる
スティッチビードソリューションの導入により材料を最大22%節約可能
材料節約面では大きな可能性が見込まれます。例として、フロントドア入口に54、バックドア入口に44、計98の溶接スポットがある一般的なサイドパネルで計算しましょう。径3 mmのビードを連続塗布すると、塗布する接着剤は合計で38 ccmになります。 一方12 mm間隔のスティッチビード塗布では、溶接スポット1か所あたり0.0848 ccm節約できます。溶接スポットが98あれば、サイドパネル1枚につき8.3 ccm節約できます。これは22%の材料節約になります。
節約の可能性 - スティッチビード塗布
計算例 | |
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ビード径 | 3 mm |
塗布間隔 | 12 mm |
スポット当たりの接着剤節約量: | 0.15 cm * 0.15 cm * 3.14 * 1.2 cm = 0.0848 ccm |
サイドパネル1枚当たりの接着剤節約量(98の溶接スポット): | 98 * 0.0848 ccm = 8.3 ccm |
1車体当たりの接着剤節約量: | 2*8.3 ccm = 16.6 ccm |
1日当たりの接着剤節約量(車体1,000台): | 16.6 ccm * 1.355 g/ccm = 22.5 kg |
1日当たりのコスト節約額: | 22.5 kg * 14 €/kg = 315 €(サイドパネルのみ) |
年間のコスト節約額: | 315 € * 225 = ca. 70.875 € (サイドパネルのみ) |
スティッチビード塗布工程における課題:ロボットの速度と柔軟性
ハイブリッド接合におけるスティッチビードは、一般的な連続ビード塗布に比べて大きなメリットがあります。しかしこの塗布工程には、ロボット速度と塗布の柔軟性に関して大きな課題があります。大量生産ラインでは、500 mm/s以上のロボット速度が求められます。これと同時に、自動車の形状はますます複雑になっています。そのため、ビードの大きさとビード間隔を自由に設定できることが求められます。さらに、自動車部品に高い精度と信頼性で塗布できなければなりません。しかしロボット、システム制御、アプリケータの間の切り換え時間によって、ノズルを開閉するバルブニードルの反応に遅れが出ます。ここで、一般的な塗布システムは限界に達します。
例:ロボット速度350 mm/s時に必要な切り換え時間
- 塗布間隔12 mm時に34.2 ms
- 塗布間隔10 mm時に28.5 ms
- 塗布間隔8 mm時に22.8 ms
ロボット制御によるティーチング
多くの工業用ディスペンシングシステムでは、スティッチビードをロボットコントローラからプログラムして、ビード長と間隔を手動で入力する必要があります。切り換え時間はロボット速度に適合しなければなりません。でないとビード長と間隔は設定された長さと等しくなりません。これではプログラミングの手間が大きく、コストが増えてしまいます。
システム制御による実現
アトラスコプコのSCA製品ラインアップにおける最新の工業用接着剤ディスペンシングシステムには、スティッチビード塗布用の特殊プログラムが付属しています。ビードと間隔の長さを塗布制御システムに直接入力できます。ロボット制御は「アプリケータ開」信号で塗布を開始するだけです。コントローラは、指定されたビード長、間隔、ロボット速度に従って、バルブを自動的に開閉します。フィードバックは位置センサを介して行われ、それが計算に加味されます。ロボットプログラマーは塗布速度、開始信号、ロボット移動経路を制御するだけです。アプリケータに関する他のすべての信号は、塗布制御内で処理されます。
ソフトウェアベースのプログラミングのメリット:
- 切り換え時間を自動的に決められる
- アプリケータバルブを精確に開閉できる
- 高い柔軟性:最高で128のシーケンス(ビードと間隔)をひとつのプログラム内で可能
- プログラミングの手間がかからず、作業者のミスによるリスクが少ない
事例:高速スティッチビード
あるアジアの自動車メーカーは、新型の自動車プラットホームのインナフレーム、フロアフレーム、センタートンネル、ダッシュボード、ホイールアーチのスポット溶接と高強度接着剤を組み合わせることを決定しました。その目的は、剛性、耐衝突性、そして全体的な運転経験を向上させることでした。内部調査では、車体下部に最大50メートルの接着剤を使用して、車の運転挙動が大幅に改善されたことが示されました。スティッチビード方式は、この接合の課題に最適な塗布パターンであることが判明しました。これにより、最適な70メートルを超えることなく、車体下部グループの溶接スポットの広範囲な分布が可能になりました。
OEMの要求は、アプリケーションの品質とプロセスの信頼性を損なうことなく、ロボットの速度を500 mm/s以上にすることでした。このお客様向けに、アトラスコプコは、お客様の仕様に従って信頼性の高い高速プロセスを実現する特殊なアプリケータを開発しました。ソリューションは、ダブルアクションシリンダと超高速スイッチングエアバルブを有する空気圧アプリケータです。ニードルストロークを高速化するために、アトラスコプコは、バルブ開口部を再設計して拡大しました。ノズルの開閉時に空気がより速く排出されるようになりました。現在、アジアのOEMは、ボディショップの生産ラインで100台以上のアトラスコプコシステムを稼働させており、すでにアトラスコプコと協力してロボットの速度をさらに向上させています。
まとめ:スティッチビードソリューションに投資する理由
スティッチビード方式がハイブリッド接合の問題を根本的に解決するのは、特にスポット溶接と組み合わせたときです。材料を最大20%節約するため、コストも大幅に節約できます。しかも生産性、安全性、品質が大きく向上し、総所有コストが減るなど他にも数多くのメリットがあります。しかし、ロボット速度が塗布工程で難題になる可能性があります。高い要求が業界から求められていることを考えると、一般的なディスペンシングシステムの多くは限界に達しています。アトラスコプコは、500 mm/s以上のロボット速度で安定動作する特殊な高速アプリケータを開発しました。同時に、専用ソフトウェアでプログラミングの手間を減らしています。